今回のメインテーマは、日韓関係悪化の原因になっている「徴用工問題」についです。いつものように、日本のマスメディアはこのことについて全く報道していないわけです。
ちょうど1年前から関係が悪化し、膠着状態にある日韓関係ですが、改善に向かう可能性を示す兆候が出てきています。「東アジアサミット」出席のためタイを訪れていた安倍首相は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と11分間の会談を行いました。
韓国向け輸出の大幅減少で経済的な打撃を受け、また「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)」の韓国による破棄を懸念する日本と、ムン政権の支持率低下に歯止めがかからない韓国が、お互い関係改善に向けた動きを始めた可能性があります。
結局、日韓関係悪化の原因になっているのは徴用工問題であるということです。徴用工とは、戦前の日本企業が中国や朝鮮半島で徴用した労働者のことです。元徴用工は、日本企業によって奴隷のように扱われ、また給料が未払いであったとして補償を求め、70社以上の日本企業を訴えています。
昨年末、韓国の最高裁判所「大法院」は、「日本製鉄」に対して韓国人の元徴用工の損害賠償を命じる判決を下しました。一方、裁判を起こされた日本企業が交渉に応じなかったことから、韓国の裁判所は「新日鉄住金」、「三菱重工」、「不二越」などが韓国内に保有している資産を差し押さえています。
一方、日本は韓国のこのような動きを国際法違反であるとし、即座の撤回を要求しましたが、韓国が協議に応じなかったことから日本は、韓国を輸出手続きで優遇対象となる「ホワイト国」から除外しました。
このことが、韓国国内の怒りを買い、日本製品の不買運動が起こりました。さらに、韓国は繊細な軍事情報を日米韓で共有する協定の「GSOMIA」の破棄を表明しました。その後、北朝鮮は何度も日本海に弾道ミサイルを発射させています。
このような状況の中、徴用工の問題の背後には「個人的請求権」を長年認め、4名の中国人徴用工の損害を実質的に賠償した日本政府の一貫しない態度があります。中国人に賠償したことは、韓国人にも賠償しなければならない、という論理です。
徴用工問題は、「韓国は国際法に違反している」と主張すれば解決する問題ではなく、国際司法裁判所のような第三者機関に訴訟を起こすと、日本が敗訴する可能性があると指摘されています。
しかし、最近になって日本の立場をさらに不利になりつつあるようです。むしろ国際条約の中にある「国際人権規約」に違反しているのは日本である可能性が出てきました。「国際人権規約」とは、国連の「世界人権宣言」の内容を具体的に条約化したものです。
1966年に国連総会で採択され、1976年に発効しました。日本は1979年に批准しています。「公的資格で行動する者」、つまり政府や企業、または軍隊などによって人権を侵害されたものは、きちんと救済されればならないという規定です。
この「国際人権規約」の批准後、各国政府は戦時中などに政府が行った行為や先住民の被害者に対する救済処置を実施しています。例えば、ドイツは国が賠償するのではなく、強制動員に対する労働者への被害補償として、2000年にドイツ政府と約6000社のドイツ企業が基金を創設し、これまでに約165万に対して、約45億ユーロ(約7500億円)を賠償しています。
さらに、オーストラリアやカナダ、ニュージーランド、アメリカでは先住民族に対する謝罪や補償が行われています。特に、アメリカはレーガン政権時に、第二次大戦中に日系アメリカ人に対して行った隔離政策を謝罪し、補償しています。
このような「国際人権規約」の規定を、徴用工問題に適用することになる可能性があります。日本企業や日本政府は「公的資格で行動するもの」なのは明らかで、徴用工に対してはそれ相応の救済処置を実施する義務が日本にはあるということです。
これは「個人請求権」の問題が政府間の国際条約で解決されているのかいないのかとは関係がなく、「公的資格で行動する者」により権利を侵害されたものは、救済する義務があるとした条約です。つまり、徴用工は救済されなければならないということです。
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