ワグネル、ベラルーシで拠点形成 数千人訓練か、周辺国が警戒
 (出典:2023年7月26日 毎日新聞)
6月末に起きた、民間軍事会社ワグネルの元代表である「プリゴジンの反乱」は、ロシアの首都モスクワが狙われたことで、プーチン大統領にとって危機であったことは確かです。
プリゴジンは、プーチン政権下にあるショイグ国防大臣やゲラシモフ参謀総長などが、目の上のたんこぶであったワグネルを乗っ取ろうとしたことを察知しました。そこで、特別顧問であったスロビキン副司令官をロシア軍のトップに据えようと、クーデターを起こしたということです。
ところが、冷静なプーチンは時代の変化を受け入れる覚悟を持っていたように思います。プリゴジンには、2024年のロシア大統領に出馬するとの噂があり、ロシア軍の幹部にもそれを支持する動きがあるとのことです。
やはりロシア軍は一枚岩ではなく、内部争いが軍部内でも起きていることがわかりました。西側メディアは、スロビキンなど反対勢力15名がロシア治安当局に拘束されたと報道していますが、その他にもプーチン体制に不満を持っている軍人たちは多数存在しいていると思われます。
その後、ロシア軍はプリゴジンからワグネルの代表権を奪い取り、ロシア語で「セドイ(白髪)」と呼ばれるトロシェフ元大佐が指揮官として選ばれました。つまり、ベラルーシ軍を訓練しているのはロシア軍傘下のワグネルであり、ポーランドとの紛争に備えているということです。
「NATOのアキレスけん」対ロシア最前線の基地とは?
 (出典:2023年1月6日 NHK 国際ニュースナビ)
ヨーロッパには、「カリーニングラード」という約100万のロシア人が居住しいているロシア領土があり、リトアニアとポーランドに挟まれています。この孤立したロシア領土が核装備されたのは、2014年にクリミヤ半島がロシアに併合されてからです。
そして、NATO加盟国であるポーランドとリトアニアとの約100キロほどの国境地帯に、「スバウキ回廊」と呼ばれる唯一、陸でつながっている道路(65キロ)があります。この道路はNATOの弱点であり、ロシアは自国領土をベラルーシと直結させようとしているわけです。
もしロシアがこの道路を支配した場合、NATOはポーランドからリトアニアへ陸路で兵力を輸送できなくなり、バルト三国(リトアニア、ラトビア、エストニア)はNATOやEUの同盟国から孤立することになります。
だから、ロシア軍は実戦経験が高いワグネルの兵士にベラルーシ軍を訓練させています。ワグネルがウクライナ軍を全滅させた話は、リトアニアやポーランド軍の兵士たちにも伝わっているはずです。
ワグネル移転に戦々恐々=NATOに防衛強化要請―ベラルーシ隣国
 (出典:2023年6月28日 時事エクイティ 海外経済ニュース)
死を恐れないワグネルを前に、NATO軍の兵士たちが冷静で居られるわけがありません。現在、ポーランドにはNATOの地方司令部が置かれていますが、そのほとんどがリトアニアとポーランド軍の混合旅団です。
2022年2月にウクライナ戦争が始まって以降、リトアニアとポーランドでは緊張状態は高まっており、スバウキ回廊を守り抜くことが任務の一つであることを自覚しているはずです。
西側メディアの報道とは異なり、ウクライナ戦争は終始ロシア軍が有利で進められてきました。ウクライナ軍は、6月からの反転攻勢に失敗し、8月からのロシア軍の攻勢には耐えられない可能性があります。
しかし、アメリカを中心としたNATOがウクライナの敗北を認めることはなく、したがってロシアとの停戦交渉が始まる可能性も低いと思われます。もし、バイデン政権が停戦交渉に乗り出したとしても、現実問題としてリトアニアとポーランドが反対するのは間違いありません。
ポーランドのウクライナ戦争参戦に危惧〜歴史人口学者が鳴らす警鐘「問題はアメリカだけではない」
 (出典:2023年6月25日 DIAMOND online)
むしろ、ルーマニアも加わって独自にウクライナ戦争に軍事介入する可能性もあり、前回もお伝えしたように戦線がどんどん西ヨーロッパに移動していくような状況です。この3国にとっては死活問題であり、何とかベラルーシとロシアの侵攻を防ぎたいと考えています。
一方、ベラルーシとロシアはスバウキ回廊を占拠し、NATOの補給路を分断することでウクライナ戦争を優位に運ぶことができます。結局、ウクライナ戦争は第3次世界大戦の始まりにすぎず、これから戦場が世界中に広がっていくのは現実になりつつあります。
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