トリプル安の「イギリス売り」は「新たな金融危機」の兆候なのか
(出典:2022年10月1日 TBS NEWS DIG)
トラス政権のイギリスで起こった英国債とポンドの暴落が、果たして日本でも起こるのかどうかですが、2023年末にアメリカ発の金融危機が引き金となり、円高ドル安が始まる可能性があります。
イギリスでは、通貨ポンドが大量に売却されたことで、同時に英国債も投げ売りされて金利が数日で2倍になりました。そして、イギリスの中央銀行「イングランド銀行」が介入して、英国債を買え支えて阻止したわけです。
暴落の原因は、トラス新政権の経済対策であり、特に富裕層を優遇した減税政策(450億ポンド=約7兆5000億円)を嫌って、全体の30%にあたる外国人投資家がポンドと英国債を大量に売る動きが見られました。つまり、投資家たちがイギリスの財政に懸念を示したということです。
結局、減税対策を発表してから最大8%も下げましたが、「財政よりも経済成長を優先する」ことが問題であったということになります。英国債(10年もの)の金利も2%台から一時4.5%まで暴騰し、20年ぶりの高水準に達しました。
当然、住宅ローンなどの金利も2倍になることで一部でパニックに陥りましたが、通貨と債券、そして株価の「トリプル安」が起きました。
さらに、デリバティブ(金融派生商品)の評価損が膨らみ、追加担保の差し入れを要求されたイギリスの年金基金は、英国債を大量に売って資金を捻出しようと動いたことも原因の一つです。そして、イングランド銀行は国債の暴落を阻止するために国債の買い入れを始めました。
2週間で少なくとも3200億ポンド(約53兆円)の英国債が買われたことで、結果的にトリプル安は阻止されましたが、責任を取ってトラス首相は辞任し、代わりに初のインド系のスナク首相が就任しました。
ポンドの暴落は、ユーロなど世界中の通貨に影響を与え、今回のトリプル安の発生はイギリスだけに限定されたことではなく、同じG7の欧米諸国や日本でも起きる可能性があります。実は、世界中のエコノミストの間で、最も危険性が高いのが日本だと思われています。
なぜかと言えば、アメリカの中央銀行FRBが何度も利上げしたことで、日本との金利差が5%にまで広がって1ドル=150円台にまで円安ドル高が進んでいるからです。要するに、円を売ってドルを買って儲けるという投資が増えているということです。
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(出典:2022年11月2日 Yahooニュース)
それに対して、財務省と日銀が何度も介入したことで、140円台後半を維持するようになりつつあります。なかなか円高にはなりませんが、ようやく円安に歯止めがかかった状態にあります。しかし、専門家の間では1ドル=200円台まで進むと予想されているようです。
この予測が的中するとは思えませんが、円安に歯止めがかからず1ドル=500円を予想しているのが、以前から1ドル=200円説を唱えていた元参院議員で元JPモルガンチェース銀行の日本代表の藤巻健史です。
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(出典:2022年11月3日 Yahooニュース)
なぜ円安に歯止めがかからないのかと言えば、日銀が円安を押さえ込むための利上げという手段が使えないからです。すでに日銀の黒田総裁も指摘していますが、アメリカとの金利差が4%も開いたことで、いまさら利上げしても効果はないと思います。
そもそも、利上げすると株価が下落するなどさらに景気が悪化することになります。確かに、利上げすると日銀が本気で介入するというメッセージとして市場は受け取る可能性は高く、円安に歯止めがかかるあもしれません。
しかし、民間企業である日銀が本当に利上げすると債務超過に陥って財政破綻することになります。日銀は、安倍政権時代から金融政策で国債を発行するため、大量の紙幣(日本銀行券)を印刷して金融機関にバラまいてきました。
つまり、紙幣の流通量が増えていることで円安ドル高が起きているというわけです。日銀のバランスシートでは、紙幣の発行は日銀の負債として計上されており、現在の総資産は約750兆円ですが、負債が約700兆円で50兆円しか余裕がない状態です。
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(出典:2022年10月30日 Yahooファイナンス)
今年、ようやく目標としたインフレ率2%を達成しましたが、日銀の負債の大半は紙幣と民間銀行が預けている当座預金です。2016年1月以降に開設した当座預金は「マイナス金利」ですが、それ以前の当座預金には約1%の金利がついています。
ところが、インフレ率の上昇で金利が上がるか、政策金利を上げると日銀が当座預金に支払う利子が、政府から受け取る国債の金利を上回って損益を出すことになりかねません。さらに、金融引き締めを始めると、保有する国債を市場で売却しなければならなくなります。
日銀は、低金利の国債を高く買ってきたので、利上げをすると国債を安く売ることになります。簡単に言えば、高く買った国債を安く売るということで日銀の損失を増やしてしまうわけです。その結果、日銀のバランスシートが悪化して債務超過に陥るということです。
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